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雨匣浸

「器用だな」
 ぽつりと彼が零したので、私は思わず瞬いた。
 その視線が向けられている手元に顔を向け、納得して頷く。
「昔から雑用は得意なのよ」
 これでもね、と冗談めかしてみせると彼は目元を柔らかく緩めた。
「助かる。……ああ、もしかして家事も得意だったりする?」
「ええ、それなりに」
 私が答えると彼は少し躊躇うような素振りで眼差しを揺らした後、自分の頬を指先で掻きながら口を開く。
「もし良かったら、食事とかも手伝って貰えると……」
 発された言葉があまりにも控えめで、つい笑ってしまう。
「構わないわ。居候の身だし、それくらい」
 良かった、と大袈裟に胸を撫で下ろす彼。その手元へと視線を向け、私は目を細くした。
「何なら包丁の使い方も伝授しようかしら」
 悪戯にそう言った私に彼は目を丸くし、真新しい傷跡の残る手を後ろに隠しながら「助かるよ」と笑った。

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