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雨匣浸

「おかあさん、さっきのひとはだれ?」
 幼い娘に問われ、私は振り返った。
 大きな丸い目の色は夫によく似た色をしている。
「さっきの人はね、作家さんなのよ」
「さっかさん」
 始めて聞く響きにきょとりと首を傾ぐ娘の頭を、そっと撫でていく。彼女の髪の色は私似だ。
「いつか、あの人のお話が届いたら。お母さんが読んであげるからね」
 わっと嬉しげに上がった声と、満面に広がった笑み。何度も頷く娘に自然と私の頬も緩む。
 潮風に促されて顔を上げると、海の向こうにもう随分と小さくなってしまった愛しい国が見えた。

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