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渡矢シキ

(司の0話)
 
毎年、年末は実家に帰る事になってる。キッチンを覗くと、菜箸を持ったままの母さんが振り返った。
「あら、おかえり」
「ただいま。渉は?」
「お友達のとこ。父さん今日は早いって」
「ふーん。タマは?」
「……タマ?猫ちゃんは飼ってないわよ?」
「は?」
ただいま、と玄関から声がした。寒い寒いと入ってきた渉の肩を掴む。
「タマは!」
渉は首を傾げ、眉を寄せる。
「タマ?」
「俺達の弟だろ!」
「司の弟はオレだけだろ」
違う、俺には弟が2人いて、ああそうだ母さんはタマを産んでーー
 
「ッ!」
いつの間にか、ベッドに突っ伏して眠っていたらしい。消毒液臭いベッドに顔色の悪いタマが埋もれるように眠っている。夢の中で渉は当たり前に友達と遊び、死んだ母さんがいて、親父は単身赴任してなかった。そこにはありふれた幸福があった。
「夢で、よかったッ」
タマがいない幸福なんて、悪夢同然だった。

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